今回は蒸し湯と鯉のぼりで有名な杖立温泉について!
目次
温泉データ
泉質 :塩化物泉(ナトリウム-塩化物泉)
源泉温度:約98℃
pH :約8.5
その他 :日本百名湯
特徴
杖立温泉は熊本県阿蘇郡(一部大分県日田市)に位置する温泉地。
その特徴的な名前はこの地を訪れた弘法大師が残した短歌に由来があります。
「湯に入りて 病なおれば すがりてし 杖立おいて 帰る旅人」
(訳:杖の助けを借りてこの地にやってきた旅人が、湯治によって健康を取り戻し、帰る頃には杖なしで良いほどに元気になった)
遠い昔から温泉の効果が認められていることがわかります。それにしても、短歌によって後世まで語り継がれているというのがなんともおしゃれ。
また、今の時期は杖立温泉が一番盛り上がる鯉のぼり祭りの時期。全国から観光客が集まるこのお祭りは40年以上の歴史をもち、今年は4/1~5/6にかけて3000匹以上の鯉のぼりが温泉街の中心を流れる杖立川の上を泳ぎます。
ちなみに杖立温泉は鯉のぼり発祥の地ともいわれますが、他にも江戸時代の江戸城、高知県の四万十など諸説あり。でもこんなに立派な鯉のぼりが上がるほどですから、きっと何かしらのゆかりはあるはずですよね。
さて、温泉の一番の特徴はなんといっても源泉温度の高さ。杖立温泉では沸点にまで届く温度の源泉を蒸し風呂として利用してきた歴史があり、今でも杖立の多くの旅館には蒸し風呂が備わっています。
蒸し湯とはいわゆるサウナのような施設ですが、杖立温泉では温泉を下に溜めて、その温熱によって蒸気を生み出します。こんなことができるのも高い源泉温度ならでは。
杖立では温泉浴以前よりも前にまずこの蒸し湯の文化が始まったとされており、地元では「風邪を引いたらまず蒸し湯」と言われるほどであったそう。
最近では首だけ出す箱のようなスタイルや、ベットに横になりながら入浴できるスタイルなど種類も様々になっています。
温泉街では温泉の蒸気を利用した蒸し窯も備わっています。1679年の黒田藩の儒医が残した紀行文には「物を以てこれにひたせば忽爛熟す(たちまちらんじゅくす、と読むのかな?)」とあり、高温泉を古くから利用していたことが窺えます。無料で使える共同の蒸し場では観光客も楽しめるよう、温泉街近くの「豊作市場」では地元の食材を中心にたまごやお芋などを販売しています。中でも杖立の蒸気で作るプリンは有名で、温泉地の名物にもなっていますね。
歴史
杖立温泉は応神天皇の産湯として使われた開湯伝説が残っています。これが本当なら1800年以上の歴史をもつことになるそうですが、そもそも短歌を詠んだ弘法大使が実在したのが平成初期であるためかなりの歴史があるのは間違いなさそうです。
江戸時代には肥後藩藩主によって本格的な整備が進められ、御前湯が設置、それがそのまま現在の共同浴場として残っています。
戦後の昭和28年には西日本水害で大きな被害を受けたものの復興を迎えたのち、「九州の奥座敷」と呼ばれ歓楽街としても栄えました。
その後は温泉客の嗜好の変化などに伴い、近傍の黒川温泉などが脚光を浴びるのと対照に杖立温泉は衰退の一途をたどります。それでも最近は温泉情緒や歴史、背戸屋と呼ばれる町並みの散策、蒸し湯などの特徴を生かしたまちづくりを精力的に行っています。
訪れた感想
実際に訪れたのは昨年の3月。阿蘇内牧温泉で宿泊したのち、いかにも九州の自然といいうような山道を越えて着いた杖立温泉。
まず温泉街がめちゃくちゃ好み!杖立川を中心として左右に旅館が立ち並び、どこか昭和チックな雰囲気が漂います(私は平成生まれですが)。ところどころに湯気が立ち上る景色は小浜温泉を彷彿とさせます。
鯉のぼりの時期ではありませんでしたが、冷えた空気の中で立ち上る湯気を見るのもまた中々に味わい深いものがありました。
このように杖立温泉は急峻な山々に囲まれた渓流沿いの狭い土地ゆえ、町を探索すれば家屋が隙間なく立ち並ぶ独特な景観が形成されています。そんな街並みの中でも小さな裏路地の部分は「背戸屋(せどや)」と呼ばれ、これが地元の方々の生活道路。撮影のロケーションにもよく使われることから、これを目当てに訪れる観光客もいるとか。
訪れたのは米屋別荘(こめやべっそう)さん。ここでは源泉100%のお湯を打たせ湯やつぼ湯で楽しむことが出来ます。もちろん蒸し湯もあります!
お湯はナトリウムー塩化物泉で、分析書にある成分よりも結構しっかりとした成分を感じる温泉だった印象があります。不思議。
特にメタケイ酸が豊富で、最近は美肌の湯としても有名になってきているとか。雰囲気もよく、かなり上品なお湯を堪能できてとても満足でした。とても大好きな温泉です。
蒸し湯は画像が見つからず出せないのですが、やはりサウナとは少し違って香ばしい匂いが充満しています。これは例えば四万たむらさんや渋大湯の蒸し湯のように、温泉を水蒸気にすることで、その成分の独特の匂いが鼻孔をくすぐるような感じでしょうか。また、普通のサウナと違って寝転がるのがデフォなので、よりリラックスして蒸気を楽しむことが出来ました!(しかし温度調節が難しいため、最初は打ち水をして、無理のない範囲で楽しみましょう)。
杖立に住む方々は毎日蒸し湯に入れるなんて、とっても贅沢ですなぁ...。
後書き
ということで、今回は杖立温泉について取り上げさせていただきました。
自分が訪れたときは、例にもれず事前情報なしでしたので、独特の温泉街の雰囲気や蒸し湯を見たときは驚きました。このような、その温泉地固有の文化を目の当たりにすると印象に残りますし、より興味を持ちますよね。
中でも杖立温泉では温泉浴よりも先に蒸し湯が出来ていたというのも面白いですね。でも確かに考えてみれば、100℃近い温泉には入るなんて発想はならないか...。蒸気で楽しむという考えになるのも納得です。
なんとなく、そのような面白い文化が残っているのは九州地方に多いイメージがあるので、それも含めて九州の温泉巡りは一段と楽しみになります。
もちろん、それぞれの地方にはそれぞれの文化があって、例えば自分の住む長野県は共同浴場がかなり多く、それをゆっくりと回る楽しみもまた良いものです。それぞれのローカルな文化に気づき、肌で感じながらこれからも温泉活動を楽しんでいこうと改めて思いました。
では今回はこの辺で。それではここまで目を通してくださり、ありがとうございました!
(来週はちょっと久々に長期の旅行に出かけるので、更新は無しになるかもです...。)